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2021年の年始に劇場公開された「Swallow」というフランス・アメリカ合作の映画がある。
裕福な経営者の男性と結婚し、ニューヨーク郊外の豪邸に暮らしているが、その実は夫にも義父母にも軽んじられ、お飾り主婦扱いされている女性がいかに男性優位社会や家父長制といった抑圧から解放されていくかという、女性のエンパワメントが根底にある素晴らしいドラマだった。
映画の終盤、彼女が病院である薬を処方される。その後、公衆トイレで便器の中が真っ赤に染まるシーンで、彼女が服用した薬がミフェプレックス(経口妊娠中絶薬)であることが分かる。一家の跡取りを産むことだけを求められていた彼女が、自分の体は自分のもの、産むのか産まないのかを自らの意志によって選択したことにカタルシスを感じた。
多分これが邦画なら「これを飲めば中絶できるわよ」などご丁寧にセリフで説明してくれるのだろうが(そもそも日本では未承認の薬なので邦画で描写そのものが実現しそうにないのだが)、見る人が見れば「ああ、あれね」と察することができるあたり、アメリカのSRHR(セルフ・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ)は日本のそれより各段に進んでいることが窺えた。
31歳で卵巣嚢腫摘出の手術を受け、産後間もなくライターになった8年前当時、婦人科の定期的な受診などを発信して啓発したいという想いがあった。保活や産後クライシス、家事育児分担など、最近ではフェムテックなど注力しているイシューは変遷しているが、基本的には、様々なライフイベントを経ても女性であることを負担や枷(かせ)にしたくない、要するにしんどい想いするのは嫌だ、我慢するなんてまっぴらだというのがいつも頭にはある。
とはいえ、仕事と子育てを並行している身なので、日々のタスクをこなすので精一杯で、なかなか婦人科検診の啓発までは手が回らないのが現実ではあった。「時間ができたらやる」なんて言葉の薄っぺらさは重々承知の上で、後回し後回しにしているうちに、やってきた40代が。
思春期からずっと月経痛が重かったのだけれど、この1~2年とみに症状が悪化していて、月経期間だけでなく、排卵期と思われるタイミングでも、加えて月経1週間前あたりにもお腹が痛かったりする。気が滅入るとか落ち込むとかイライラするとかメンタルの不調はあまり起こらないのだけど、1ヵ月に1週間くらいしか調子がいい時期がないってツイてなさすぎる。あと10年ほどと思われる閉経までの期間をこんな風に過ごすのか。何だったらさっさと閉経してほしい、自動車の免許みたいに早期に返納できるシステムとかないのかな!なんてバカげたことも考えていた。
しかし、数年前に、少し年上の女性にこんなことを言われてしまった。
「私は、もうほとんど生理が終わってしまってるから、カッコいい男の子とか見ても胸がときめくことがないんだよね。ホルモンって大事だなって思うよ」
うーん、そうか。なるほど。
物心ついた頃から、ミュージシャンや俳優やもちろん現実世界でも好きな男が多すぎて、絶えず感情を持て余している私が、ときめきを感じなくなるとは到底思えないが、何事も過信は禁物だ。エストロゲンが減少していくことは確実だし。
年を重ねても変に落ち着くことなく適度にナンパでいたいので、早く閉経したい発言は撤回することにした。
ところで、ここのところ、TV番組や雑誌、Webメディアでは女性のヘルスケアに関するトピックがかなり多く特集されている。
「生理の貧困」を取り上げた情報番組もあるし、女優や芸能人が自身の更年期を語るインタビューも頻繁に目にする。
自分が注目しているフィールドだからより目につく部分もあるだろうが、およそそっち方面には疎いであろう私の夫でさえ「フェムテック」というワードを知っているくらいなので、喜ばしい流れであることは間違いない。それも日本限定ではなくてグローバルなムーブメントだ(というか、そもそも欧米などが先陣を切っていたところに、日本が追いつこうとしている、が正解か)。
つい先ごろもメキシコ系女優のサルマ・ハエックが高齢出産と更年期の体験談、そして次回作で更年期の最中にいる女性を演じていると語っているインタビューを読んだところだ。
サルマ・ハエックといえば、裕福な家庭出身で、結婚相手もファッション企業を経営する実業家で大富豪。そのカーヴィーなボディもあってゴージャスとしか言いようがないラテン女優だけど、4~5年前からフィルターなしでInstagramにすっぴんやグレイヘアをセルフィーで披露している。すっぴんセルフィーのどこまでがすっぴんなんだという議論はさておき、彼女の数年の動向が、更年期についても詳らかに語るところまで来たのなら、とても頼もしい。
この勢いは他の女優陣にも波及するだろうし、同時にセレブ発更年期対策ビジネスや商材もわんさか出てくるはずで(すでにいくつかあるが)注視していきたい。
同時に、自分のヘルスケアと、後ろ倒しにしていた婦人科受診の啓発をいい感じで考えていきたいなと、ここに所信の一端を申し述べます。