チーム完熟の【完熟お見舞い、申し上げます】
既婚、未婚、子あり、子なし、シングルマザーとバラエティに富んだ編成のコピーライター集団「チーム完熟」。酸いも甘いもかみ分けてきた40代~50代の4人が人生の後半にさしかかり、訪れた心身の変化に向き合う奮闘記【完熟お見舞い、申し上げます】。同世代の読者が抱えるモヤモヤした気持ちを少しでも明るく照らせますように!
最大のめまいは、離婚日に。めまい原因さがし vol.5
頭が真っ白になる、というのはコレか。
私は役所のボールペンを握りしめながら、徐々に狭くなりゆく視界で必死に用紙をにらみながらそう思った。
目の前に座っている若くてつるんとした表情の市役所職員さんの肌の白さ、左隣でスマホをいじっている元夫の黒い身なりのコントラストを感じながら、大型のめまいがやってきていると覚悟を決めた。
動悸がする。
視界が白くて狭い。
頭がぐらんぐらんする。苦しい。
パイプ椅子から身体が崩れ落ちそうになるのを必死にこらえ、ボールペンから握り返されるちょっとした痛みをよすがに、右足を踏ん張った。
絶対、倒れるな! 意地を見せろ!
と自分を叱咤激励しながら、私は目の前の「児童手当」の記入にとりかかったのだ。
なんとか書いて提出するも、その児童手当は書き漏れだらけ。
見かねた職員さんは空欄を指さし、記入を促してくれたっけ……。
これが2021年5月。
この日は、離婚届を出すと決めていました。
保育園へ子どもをおくった足で離婚届を出すべく役所に向かったら、数分前に夫が離婚届を提出(※)。
※このようにどちらか一方のみで離婚届けを出した場合、もう一方へは後ほどその旨を表す受理通知が届きます。書類に「事件」と書いてあり、たいそうびびりました。
その流れで児童支援課にて児童手当の受給者を私へ変更する用紙を書いているとき、冒頭の自分史上最大のめまいに襲われたのです。
これって、もしかして……
パニックってやつでは?
一連のめまいの原因って、
心からでは?
めまいに襲われている渦中のマンゴーは大荒れです。
「ついに、この日がキターーー!(緊張)」
「本当にわたし大丈夫? ファイナルアンサー?(焦燥)」
「シングルマザーの8割は貧困です……(絶望)」
「新大黒柱、爆誕! やるしかねえ!(奮起)」
「はあ……スッキリ(安堵)」
ネガポジごじゃまぜで心臓は16ビートより早いテンポを刻んでいました。この激しいうねりがめまいとなるのも、さもありなん。
思い起こせば、めまいが起こるようになった2020年の年末は、離婚に踏み切るか迷っている時でもありましたから、合点がゆくというものです。
「結婚は簡単だが、離婚は大変」といいますよね。
一度くっついて、表面上一体化したものを引きはがす手続き。
関係者への報告と理解と今後のご協力のお願い。
これらが「大変」といわれるゆえんでしょうが、マンゴーが思うにそれは所詮 ”工数が多くてしちめんどくさい”ことなのであって、やればいつかは終わるもの。
本当に大変なのは、自己矛盾の処理と、これからも続く子どもたちのケアだと思うんです。
いちおう、干支をひとつ戻れば、好いて好かれて結婚している2人でありました。
前途洋々、2人一緒にいれば無敵とさえ思っていた感情が、
2人一緒に”いない”方が幸せになれると
”お互い確信する”に至る
のだから、そこにはハイカロリーなドラマが凝縮されています。
それがしばしば顔を出しては、揺さぶっていくのです。
またS極からN極へ、気持ちの移り変わりはグラデーションであるはずだけど、「正反対の結果になったのはなぜ?」という朴訥な刃が、決着をつけて納得しているはずの私を、ふいに襲ったりするのです。
いや~疲れますよ、そんなん。
気持ちの整理が大変ですよ。
でもそれより難しいのは、どうすれば子どもたちが傷つかないで済むか、ということです。
離婚後も共同で養育しようが、
「パパとママは、これからも変わらずパパとママだよ」
なんて当っったり前のことを言おうが、
パパが出て行き、家の景色が変われば喪失感がないわけない。
小3息子は「米粒くらいは悲しいけど、そんなもん」と言い、
年長の娘は「なぜ?」を連発したあと
「ママが一緒にいるからいいよ」と言いました。
いや~、気を遣わせていませんかね、子どもに。
私ができることといえば、今後の暮らしで寂しい・悲しい思いをさせないように努めるしかない。その精度と積み重ねをおもって、
嗚呼、離婚て大変だな……
と感じたのです。
さて、冒頭の最大めまいは、その後ゆらゆらと弱くなり、湯船のお湯に酔うことも減っていきました。前回、耳鼻科で処方してもらった漢方薬、苓桂朮甘湯(りょうかんじゅつかんとう)が効いているからかもしれないし、離婚したという既成事実が迷いを消し、無理やりでも私を前向きにさせたからかもしれません。
身体の調子が良いと、気持ちも晴れます。
その後マンゴーは、漢方薬の手持ちが少なくなったので、前回と同じ耳鼻科へ行きました。
姓が変わった新しい保健証を持参すると、F先生(女性)は「えっ!? 誰かと思ったら!」という反応のあと「いや~よくやったね。思っていてもなかなかできないからね、尊敬するよ。」と寄り添ってくれ、先生の育児体験も知っている身であったので涙がこぼれました。
わかっております、ここは耳鼻科であって小料理屋や心療内科ではないはずです。
が、こういった医師の存在があり、女将と常連さんのような関係を許してくれると、時間に追われながら働くちびっ子母にとっては、オアシス。どれだけ救われましょうや。
ひと段落して身体症状の話になり、めまいに代わって不眠症状が出てきたと報告。
それにより別の漢方「抑肝散(よくかんさん)」を処方していただきました。
赤ちゃんの夜泣きやイライラを鎮める薬ということで、毎日キーキー叫んでいるマンゴーにぴったりじゃございませんか。先生、分かってくれてるなあ……。
あれから5か月。
今も抑肝散を飲み続け、あれだけ長く病院を転々としていた「めまい行脚」もようやく終止符を打ちました。
ようやく長い旅が終わって、マンゴーの不調は消え去ったのです……といきたいのですが、今この原稿を「ホルター心電図」なるものをつけながら書いています。
ホルター心電図とは24時間心臓の鼓動のデータを取る小型の電子機器のことで、心臓の疾患が疑われたり、脈の規則性をはかるために用いられるそう。
実はコロナ罹患後、就寝中に動悸におそわれるようになってしまったマンゴーなのです。
嗚呼、一難去って、また一難。
次回からは、「動悸息切れ」の原因とその付き合い方にかわって連載は続きます。
嗚呼……あたしの身体、カムバァッッーークッ!!
レベル 42(歳)
装備:子育て支援医療費受給資格証、児童手当
状態:めまい一過
体力:70/100(離婚でヘトヘト、だが肉体は回復)
気力:60/100(感情の嵐)
入手アイテム:抑肝散(よくかんさん)。神経を鎮め、よく眠れるという。
支出:合計860円
獲得した経験値
・離婚はとても疲れる。
・免許証、マイナンバーカード、銀行、郵便局、カード、通販などにおける姓名変更の手続き10回以上。自分史上、1番めんどう。よくやった。