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2022.11.14コラム真貝 友香

【シネマと女とワインを一杯】chap.8 神と髪は細部に宿る ~家族の物語、下から見るか?横から見るか?~

シネマと女とワインを1杯8

この連載ではこれまで洋画、ハリウッド女優の話ばかりしてきたが、邦画や日本人女優の年の重ね方も同じくらい興味がある。日本人だからといって何もかも参考になるとか取り入れられるわけではないけど、洋画と同じくらい邦画から得るものも多い。
その昔、一緒にドラマを見ていた母が「この人に似ているって言われたことがあるんだよね」とつぶやいたことがあった。私は「ほんとだー-!」と大はしゃぎしなかったけど、確かに似ていると納得した。その時名前を知った風吹ジュンという人を、以降ずっと「うちのお母さんに似ている人」として認識している。1993年に放送されていた「ひとつ屋根の下」の話だ。

あの日見た女性を表す言葉を僕達はまだ知らない

今更ではあるが、あえておさらいしておくと、「101回目のプロポーズ」「愛という名のもとに」「高校教師」など1990年代を代表するヒットメイカー野島伸司が脚本を手がけた数々のトレンディドラマの中でも割と異色だったかもしれないホームドラマ。
長男・達也(江口洋介)、次男・雅也(福山雅治)、長女・小雪(酒井法子)、三男・和也(いしだ壱成)、次女・小梅(大路恵美)、四男・文也(山本耕史)から成る柏木家。両親との死別によりバラバラに暮らしていた6人兄弟が、再び生活を共にする中で巻き起こる数々の笑いと涙、そしていかにも野島作品らしい露悪とシリアスさも混みで大ヒットした本作を当時中学2年生の私も毎週夢中で見ていた。
兄弟の中で小雪だけ実は血の繋がりがなく、ドラマの中盤で産みの母として登場する風吹ジュンは訳アリな役柄もあって、陰を感じさせる人だった。それまで見ていた女優さんのような分かりやすい色気や華やかさというよりは落ち着いていて、かといって地味とも違う。中2の私にはまだ彼女を形容する術はなかったけど、こんな大人の女性もいるんだなと感じさせてくれる存在だった。コンスタントに映画やドラマで姿を見ていること、また化粧品のCMに出ていることもあって、その時々の美しさを体現している人だと思う。かつて似ていると言われたらしい母は数年前も「無理に若作りするでもなく自然に年を重ねた感じがいいよね」と褒めちぎっていたので、母なりのロールモデルなのだろう。

「ひとつ屋根の下」はなかなか再放送の機会がなかったので、私が都合よく記憶を改ざんしている可能性もなくはないなと動画配信サービスで確認してみることにした。すっかり忘れていたエピソードや登場人物もあったが、一安心した。当時の風吹ジュンはやはり私が思っていた「ちょっと陰があって憂いを感じる大人の女性」だった。そのイメージは豊かでつやのある髪によるところが大きかったことも思い出した。何より驚かされたのはこの時彼女は40歳くらいで今の私より若い。彼女に限らず80年代、90年代の女優やアイドルを見るとみんなとても落ち着いていて大人っぽく見える。ファッションやヘアメイクのトレンドもあるけど、現代人はどんどん幼くなっていっているのだろうか。
しかし30年近く前のドラマだけに、外見でジャッジするとか「女は料理ができなきゃダメだ」と価値観を押し付けるなど今見るとアウトな描写が多すぎてくらくらする。家業のクリーニング屋を手伝いながら家事をほぼ全て任されている上に、妹の大学進学のために細々と貯金をしている小雪は今でいうヤングケアラーそのもの。何も手伝わずに食卓でふんぞり返っている男兄弟たちを見ていると、まだまだ道半ばと言えど今はだいぶマシな世の中になったものだと感慨深くなった。

私の記憶違いでないことが分かったところで、最新の風吹ジュンを確認すべく鑑賞したのは「裸足で鳴らしてみせろ」という青春映画。メインキャラクターの養母で、目が不自由な美鳥という謎の多い女性を演じていた。

全編すっぴんかなというくらい化粧っけもなく、トレードマークでもあったボリューミーな髪がだいぶ痩せている。それでもなお綺麗なことには違いないけど「イメージが変わらない」が「ずっと同じ」という意味ではないこと、年相応に見えることが決してネガティブではないことに安堵した。ちなみに私の母もとても髪が豊かだったけど近年ボリュームが減ってきているので、多分ここらへんが一番似ているんだろうなとちょっと可笑しくなった。

「百花」「ぼくたちの家族」は髪型ビフォーアフターが白眉

女優の現在の姿を確認することが鑑賞の動機という意味では、現在も公開中の映画「百花」も非常に興味深かった。主人公・泉(菅田将暉)で、認知症の母親、百合子を原田美枝子が演じている。演出やストーリーはあまり好みではなかったが、認知症を患っている現代と90年代の演じ分けが見事だった。ここでもやはり注目すべきは髪のボリューム。30代と思しき90年代はハリのあるセミロングで、ウェーブがかかっている現代は、雨に濡れてぺしゃんとなるのがエイジングサインとして非常に雄弁だったのだ。ちなみに2014年の「ぼくたちの家族」という映画では脳腫瘍を患った母親を演じていて、この作品でも手術前と後で変化する髪型が大きくイメージを左右する。ドラマの「華麗なる一族」では銀行頭取の奥方、映画版の「ヘルタースケルター」では冷徹な整形外科医と、ゴージャスでクールな印象が強かった分、「ぼくたちの家族」での普通の主婦役はとても新鮮。スタイリストやヘアメイクアーティストの技量によるところも大きいのだろうが、着るものや髪型一つで雰囲気ががらりと変わる様にも驚かされた。ちなみに同じような家族の物語としても私は圧倒的に「ぼくたちの家族」派。母性というロールに甘え切っていた男たちが、母親の重篤を機に危機に晒されるという話はカンテラ世代なら4割くらい身に覚えがあるのではないだろうか。家長然として頑固で口下手な夫を長塚京三、優しくて真面目だけど臆病で不器用な長男を妻夫木聡、普段は軽いけどここぞという時に鋭くて行動力のある次男を池松壮亮が演じていて、みんな本物の家族さながらのハマり役。ギリギリのところで保たれていた家庭の均衡が音を立てて崩れ始める序盤はホラー映画レベルの緊張感が走るが、人生讃歌とも呼ぶべきカタルシスを得られる良作だと個人的には思っている。

この先、どんな作品に出るのかなとチェックしていたところ、2023年1月に公開される「そして僕は途方に暮れる」という映画で自堕落なフリーターの主人公(藤ヶ谷太輔)の母親役を演じるらしい。タイトルでピンと来たが、エンディング曲も大沢誉志幸の同名曲で、脇を固める役者陣もとても豪華。俄然公開が楽しみになった。

ひたすら髪のボリュームの話をする回になってしまったが、10年ほど子どもにばかり向いていた視線が、親世代に向いてきている顕れなのかもしれない。子どもができたことで映画を見る視点が一つ増えたけど、親や自分も年を重ねたこともまた新たな視点をくれているみたいだ。

「裸足で鳴らしてみせろ」
https://www.hadashi-movie.com/
「百花」
https://hyakka-movie.toho.co.jp/
「そして僕は途方に暮れる」
https://happinet-phantom.com/soshiboku/


真貝 友香(ライター)

ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。
妊娠出産を機にフリーライターとして活動。子育て、教育、キャリア、テクノロジー、フェムテックなど幅広く取材・執筆中。

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