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2023.06.16コラム真貝 友香

【シネマと女とワインを一杯】chap.11 クセ強お母さん代表トニ・コレット~おもしれー女は場数と引き算が命~

シネマと女とワインを1杯:chap.11

作品の善し悪しや、規模に関わらず、この俳優が出ている作品は大体当たり、という存在がいる。安定感ある演技をする人が一人いるだけで、作品が引き締まるし、出演者が皆そのタイプだと、なお嬉しい。Amazonプライムビデオで配信中のドラマ「パワー」を見ていると、やっぱりトニ・コレットっていいなあと思う。その演技が手堅いだけじゃなくて、「おもしれー女」と言いたくなるような、ユーモアやセンスの良さに溢れている、90年代からずっと好きな女優の1人だ。


「シックス・センス」から「ヘレディタリー」までクセ強お母さんなら任せてよ

ナオミ・オルダーマンによる小説を原作とする「パワー」は、ロンドン、ナイジェリア、東欧、シアトルなど世界中の少女たちが、意のままに人を感電させる能力を突如手に入れ、世の中のパワーバランスを逆転させていくSFスリラー。平等とは言えない社会構造の中で、少女たちが受ける抑圧、そしてそれを越えていく文字通り「パワー」を感じさせる作品で、トニが演じるのはシアトル市長のマーゴット。3児の子どもを育てながら公務に臨み、医師の夫が料理も洗濯も積極的にこなしてくれて…と全てを手に入れたバリキャリ女性に見えるが、家庭に時間を割けないばかりに、子どもからはいまいち信頼を得られていないし、肝心の仕事は、男性社会で歯がゆい思いも日常茶飯事。特に知事は男尊女卑を絵に描いたような腹持ちならないタイプで…と、リーダーとしてのパブリックイメージと、現実における泥臭さのバランスを成立させられるのは、母親役を数多く務めてきた場数のなせる業なのかなと思う。

「シックス・センス」では幽霊が見える少年のお母さん、「アバウト・ア・ボーイ」では、躁鬱を患うシングルマザー、「リトル・ミス・サンシャイン」ではトラブル続きの家族のケアに振り回される多忙な母親、「ヘレディタリー 継承」では子どもの死から狂気に取りつかれていくミニチュアアーティストなど、クセが強い家族のお母さん、もしくは、自身がクセ強お母さんを演じることが多いトニ。「シックス・センス」出演時は27歳という若さだったことも、彼女に対してずっとお母さん役のイメージを抱いてきた所以かもしれない。

邦題こそいまひとつだが、おもしれー女の本領が顕れる「マイ・ベスト・フレンド」

トニのクセ強お母さん役の中でも特に好きなのは「マイ・ベスト・フレンド」。原題は「Miss you already」で、「さっき会ったばかりなのにもう寂しい」というニュアンスを日本語に落とし込む難しさは理解できるが、この邦題で興味をそそられる人がどれだけいるのかと、劇場公開当時はうなだれそうになってしまった。しかし、その実は年を重ねても常に「Miss you already」と言い合える女友達をミリー(トニ)とジェス(ドリュー・バリモア)が演じる、切ない友情ものだ。

ミリーとジェスは幼馴染として何もかもを分かち合ってきたが、ミリーが乳がんを罹患し、長く不妊に悩んできたジェスが同時期に妊娠したことで、変化が生じていく。手術で乳房を除去し、死に対する不安を抱えながらもミリーは常に気丈に、時に傍若無人に振舞う。一方、ジェスは母になる喜びをかみしめつつ、ミリーに共有することを躊躇う。しかしある時、現実を直視できなくなったミリーは、強引にジェスを連れ出すのだが、乗り込んだタクシーで流れるのがR.E.Mの「Losing My Religion」。バンドを代表する大ヒットナンバーが、2人にとっても青春の1曲であることが、表情だけで分かる。少女時代に戻ったように熱唱する姿から、どれだけの年月を共にしてきたかを語るシーンで、私は落涙し、嗚咽が漏れないように口にハンカチを突っ込みながらスクリーンを見つめていた(声は完全に漏れていたが)。とはいえ、逃避行でめでたしめでたし、のわけはなく、ミリーには死期が、ジェスには出産が近づいていく。難病ものは泣ける話の盤石なだけに、演出がチープだと興ざめしてしまうこともあるが、コメディエンヌとして百戦錬磨のトニとドリューは、ウェットにならない匙加減が抜群。自慢のロングヘアを切ったり、「履いてないからあげる」とクリスチャン・ルブタンのハイヒールをジェスに譲ったり、絶えずユーモアを忘れないミリーを見ていると、笑いと涙って紙一重だし、ユーモアって足し算ではなく、引き算で研ぎ澄まされていくのだろうなと実感する。やっぱりここも場数が勝負なのだ。

ヒョウ柄つなぎも似合えば、オファーも絶えないのがおもしれー女

この時、トニとドリューは初共演だったそうだが、お互いをものすごくリスペクトしたことが演技からも伝わる。先日ドリューがホストを務めるトーク番組「The Drew Barrymore Show」にトニがゲスト出演していたときも、ドリューは「あなたはコメディ俳優として最高レベル、異次元」とトニを絶賛していた。ドリューはこの番組で、毎回ゲストを褒め讃えているが、その姿勢に全く嘘っぽいものがなくて、いつも真摯で誠実。質問のボキャブラリーもさすが表現者という豊かさで、インタビュアーとしても参考になります…とよくチェックしている。この時2人が着ているスウェットのつなぎとUGGのブーツは、「マイ・ベスト・フレンド」撮影時に着ていたものの再現らしいが、トニのヒョウ柄はかなりインパクトが強烈。だけど、彼女のキャラクターにとてもハマっていて、モードとは別次元の良さに溢れている。これも「おもしれー女」だからできる着こなしだと思う。

ちなみにトニがこの番組に出演していたのは最新作「Mafia Mamma(原題)」のプロモーションで、監督のキャサリン・ハードウィックは「マイ・ベスト・フレンド」を撮った人。トニ演じるクリスティンが、祖父の葬儀のためにイタリアに渡航すると、実は祖父が生前マフィアのドンだったことが発覚し抗争に巻き込まれる…というめちゃくちゃベタそうなマフィア・コメディだが、トニらしい引き算のユーモアセンスも楽しめると思うと期待大。共演のモニカ・ベルッチとともにドタバタやるのだろうか、日本でもぜひ公開されますようにと祈っている。そのほかも、「パラサイト」で世界中を席巻したポン・ジュノの最新作「Mickey 17」やクリント・イーストウッドの引退作と噂されている最新作にも出演するようで、いい仕事をしている人って名匠からも一目置かれているんだなあと納得。一方で、ワークライフ&バランスには今も葛藤があるようで、「1年の半分をオーストラリア、もう半分をイタリアで過ごすみたいな生活ができたら、子どもとプールで泳いで太陽を浴びまくれるんだけど」「私たちはみな調整ばかりしているから、調整をやめた方がいいよね」と番組内で本音も吐露している。オファーの絶えない名コメディエンヌも、いち母親、女性として抱える葛藤は私たちととても似ているし、そんな彼女の素の発言を引き出したドリューもやっぱり「おもしれー女」だ。ということで、ドリューについてのコラムはまた次回にでも!

・「パワー」
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8P2F5YC


真貝 友香(ライター)

ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。
妊娠出産を機にフリーライターとして活動。子育て、教育、キャリア、テクノロジー、フェムテックなど幅広く取材・執筆中。

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