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2023.08.31コラム真貝 友香

【シネマと女とワインを一杯】chap.13 女のリアルはどこにある~日本代表『波紋』とUS代表「AND JUST LIKE THAT…」が映し出すメノポーズ世代

不定期ながら、この連載を始めて丸2年が経過した。世界経済フォーラムによる2023年版「ジェンダー・ギャップ指数」において日本は146カ国中125位と毎度絶望的な結果で、自分が生きている間に女性が被る不平等や不均衡ってどこまで是正されるのか、と遠い目になってしまう。

一方、この2年で更年期周りの情報発信や啓発、性の健康と言った話題を見聞きする場面は劇的に増え、私たちカンテラもその一助であればいいな…なんて思っている。少し前に観た『波紋』という邦画も、わずかではあるけど、確実に変化が生じていることを感じられる作品だった。

「そんな男おらへんやろ~」と言いつつも確かなリアルを感じた『波紋』

『かもめ食堂』や『めがね』の荻上直子監督による最新作『波紋』は、新興宗教“緑命会”に傾倒する主婦・依子(筒井真理子)が主人公だ。隣人とのトラブルに悩まされ、パート先のスーパーではカスタマーハラスメントに遭いながらも、穏やかに日々を過ごそうと努めていたところに長年失踪していた夫(光石研)が突然帰宅し、末期がんで余命僅かであることを知らされる。自分の父の介護・看取りを押し付けておいて、何食わぬ顔で帰ってきた挙句、心から詫びることもない夫への黒い感情が募る依子が緑命会に救いを求めながら、いかにして解放されるのか…というプロットは女性のエンパワメントをテーマとしているのだと思う。

「思う」と若干逃げ腰になってしまうのは、個人的には疑問に感じる部分が多くて、手放しで傑作!とは言い切れなかったからだ。

劇場公開時に本作や監督のインタビューをいくつか読んだのだけど、これまでの作品の持つ「癒し」や「ほっこり」というイメージを脱却したい気持ちがあった、また男性監督が撮る女性の描写に違和感があって、リアルな中年女性が出てくる作品が増えてほしいと言及し、その土壌がある韓国やハリウッドを引き合いに出していた。

確かに女性監督の割合は男性と比べて圧倒的に少ないし、映画を見ていて「こんな女おらへんやろ~」と思うことは多々ある。しかし、それは特筆して邦画や日本のドラマのみに見られる傾向ではないというのが私見だ。

たとえばスティーブン・スピルバーグやクリント・イーストウッドは素晴らしい作品を数多輩出してきたけど、女性キャラクターの描き方には卒倒しそうになる時がある。一方で、同じくらい高齢のリドリー・スコットやウディ・アレンは、そのあたりが鋭く冴えまくっているので、性差よりも作家性、つまり「人による」なのかなと思ってしまう。

また、『波紋』については中年女性の辛苦にフォーカスするあまり、男性をあまりに悪、愚かとカリカチュアしている印象、つまり「こんな男おらへんやろ~」という気分になってしまったのだ。ある程度デフォルメしたほうが理解しやすいし、共感も呼ぶのだろうけど、それは結局、女性のリアルを描くことにはならないんじゃないのか、という感想に着地した。

と、ここまでは辛口になってしまったが、それでもなお本作が素晴らしいと思うのは、更年期症状の苦しさを、更年期という言葉を一切出さずに表現したことにある。

明確に年齢は言及されないが、20代半ばの息子がいる依子は50~55歳だろうか。パート先の休憩室でハンカチを出して汗を拭いていると、少し年上の同僚から「大変だよね」と声をかけられるシーンで依子がホットフラッシュに悩んでいることが分かる。まさに監督がいま更年期症状を抱えていることがこのシーンのヒントになったそうだが、恐らく地上波のドラマあたりなら「更年期で大変だよね」と親切懇意に説明するとこだろう。

説明を端折ると「暑がりなのかな」程度で更年期とは受け取られないリスクも多分にあるが、皆まで言うなというスタンスは、当事者である監督が観客を信用していること、そして社会全体における理解度も上がっているからこそ可能なリアルな描写だと私は捉えた。

SATC及びAJLTは本当にリアルな女性像を描いているのか問題

ところでリアルな中年女性って一体何なんでしょうね、どの作品に出てくるんでしょうねという疑問を抱いていた矢先に「AND JUST LIKE THAT…」(以下、AJLT)のシーズン2が配信開始となった。

大人気シリーズ「Sex and The City」(以下、SATC)の続編が、色々思うところも含めて興味深いことは、以前コラムにも記した通りだが、引き続きシーズン2でも彼女たちはデートやセックスを現役で謳歌している。彼女たちも50代に入り、『波紋』の登場人物と同様に、パートナーとの死別や、子どもとの衝突、新たなライフワークの模索などを経ているのだけれど、荻上監督が言っているリアルな中年女性というのは彼女たちのことではなさそう…とぼんやり考える。

ファッショナブルで華やかな世界観がウリのドラマなのだから、近年の不況や物価高を作品に反映しろとは言わない。しみったれているのは現実の自分だけで十分なので、ハイブランドの洋服に身を包み、洒落たレストランで集まるリッチな彼女たちにうっとりとしたい気持ちもある。

しかし、殊に主人公のキャリーは大きなライフイベントを経験したにも関わらず、あらゆることが渡りに船、トントン拍子で、「景気いいな~」と思わず声が出そうになってしまう。そもそものところでキャリーに中年女性のリアルな生き様を期待してもね…と我に返り、ただ今注目しているのはリサ。シャーロットのママ友で、AJLTからの新キャラクター。

シーズン2にしてこなれてきたAJLTはリサとシャーロットをマークせよ

ドキュメンタリー作家で慈善活動などのアクティビストの顔も持つリサは3児のママで、学校でもクールな存在として一目置かれている。夫は銀行投資家で例によって裕福だし、これまた典型的なスーパーレディかと思っていたのだが、回を追うごとに彼女の人となりが見えてきた。

夫とは仲睦まじいが、姑とはうまくいっていないという等身大の悩みも抱えているし、アフリカ系のルーツを持つ女性がしばしば対峙するテクスチュアリズム(より縮れて強くカールした髪質を持つ人々が直面する差別のこと)をそれとなく仄めかすシーンもあった。かつてSATCは登場人物が白人に偏りすぎ=”whitewashed”と揶揄されたこともあると、以前のコラムでも記したが、AJLTはサマンサ・アービーというアフリカ系アメリカ人コメディアン兼文筆家をスーパーバイジングプロデューサーという立場で起用している。

シーズン1ではいささか力みすぎな印象を受けた人種やジェンダーへの配慮も、シーズン2にしてこなれてきたようにも思うし、リサを説得力あるキャラクターにしているのもアービーによるところが大きいかもしれない。

また等身大という点では、更年期真っただ中のシャーロットは痩せられないことが目下の悩み。長らく子育てに専念していたものの、本来の自分を取り戻すべくギャラリーの仕事を再開することにしたシャーロットは、復帰初日に向けてワンピースを新調。シェイプされたシルエットにデコルテ周りはレース仕立て、ピンクの小さな襟元と、細部までこだわったデザインはプラダのものらしく、ウェストをこれまた華奢なベルトでマークするのがポイントなのだが、ふくよかになった腰回りが強調されてしまう。

若かりし頃の写真を引っ張り出してため息をつくシャーロットに「今のあなたは十分素敵だよ」と声をかけたいし肩を抱きたい。それでもなおこのワンピースを着るんだとガードルやウェストニッパーを駆使するのだが、収まりきらない肉が溢れる様子までさらけ出すのはかなりのガッツだ。スリムであることイコール美しい、ではないし、加齢を受け入れ、どんどん自分を解放していくのも素晴らしいが、まだまだ揺れることも意地になるのも恥ずかしいことじゃないよとAJLTは教えてくれている気がする。

ところで、最終話ではついにサマンサが復帰するということが以前より話題に上っていた。キャリーたち主要キャストとは一緒のシーンにならないことが出演の条件だったとか、今回1回だけで今後の登場予定は一切ないとか、関係性の緊張感と根深さは相変わらずのなかなかのものだが、視聴者の多くはサマンサのカムバックを待ちわびているはず。私ももちろん楽しみにしている。

また、シーズン2では、劇中にドリュー・バリモアが本人役で出てくるのだがベテラン女優らしい存在感が際立っていた。ドリューについて書きたいと、以前トニ・コレットをテーマにした回でも書いたが次回こそはドリューについて執筆します!


『波紋』https://hamon-movie.com/
「AND JUST LIKE THAT… シーズン2 / セックス・アンド・ザ・シティ新章」
https://www.video.unext.jp/title_k/and-just-like-that

真貝 友香(ライター)

ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。
妊娠出産を機にフリーライターとして活動。子育て、教育、キャリア、テクノロジー、フェムテックなど幅広く取材・執筆中。

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