チーム完熟 の【完熟お見舞い、申し上げます】
既婚、未婚、子あり、子なし、シングルマザーとバラエティに富んだ編成のコピーライター集団「チーム完熟」。酸いも甘いもかみ分けてきた40代~50代の4人が人生の後半にさしかかり、訪れた心身の変化に向き合う奮闘記【完熟お見舞い、申し上げます】。同世代の読者が抱えるモヤモヤした気持ちを少しでも明るく照らせますように!
こんにちは。わたくしライチは齢52にして初めて、お酒で意識喪失しました。
もともとお酒は弱い私。若い頃に酔いが回って、カラオケボックスや居酒屋の座敷の隅で横になったことなら何度もあります。でもそれは自分の意思で、「ちょっと休みま〜す」「ねむ〜い」なわけです。
今回のように急に昏倒するのはまったく未体験で、自分の頭が床の上にあることに気づいた瞬間は、何が起こったのかわからず混乱しました。
何杯か飲んだのならまあ仕方がない。
それが誓って、ジンのソーダ割り1杯だけなんですよ。
こんなことってある!?
時間をさかのぼります。
この日、私は年上マダムたちのお誘いを受け、人形浄瑠璃を観劇していました。
出た!年配になればなるほどなぜか関心が向く、和のクラシックコンテンツ。歌舞伎ではないところが一味違います。
主役の文楽人形を操るのは人間国宝。人間の情念を見事に描出する、人形の表現力には感嘆しきりでした。
夜からの部で、終演は9時ごろ。
このままマダムのみなさんとお茶して、一日をシメれば平和だったのですが、私にはもうひとつ予定がありました。
お世話になっている知人が9時過ぎからDJをするとのことで、急ぎ足でクラブ(平坦なイントネーションで読みます)に向かったのです。
知人がトリをつとめるDJタイムにはなんとか間に合うも、到着後30分足らずで終了。知人に喜んでもらえたのは良かったです。
そして入場時にオーダーしたジンのソーダ割りを、自分としては速いペースで飲み干しました。
気持ちいいほろ酔いの帰り道。自販機でお水のペットボトルを買い、バッグに入れて安心。
私はご機嫌でした。駅前にいたホームレスのおじさんに500円玉をあげて「ありがとうね」と言われ、「元気でね」と手を振ったり。
帰りの電車もなんとかセーフ。私は乗り越さないようにひと駅ひと駅、駅名を確認することを忘れず、万全を期して地元駅へ到着。
電車の座席を立とうとして異変に気づきました。足が、やたら重いのです。まるで泥のぬかるみに膝まで浸かっているかのよう。
普通に歩こうとしますが、まっすぐ進めない。いわゆる千鳥足になっているのが自分でもわかります。
千鳥足って、ふわふわして気持ちいい状態だと思ってたのに全然違うじゃん!
これが都心の駅なら、無理せずホームのベンチで休みますが、何しろ自宅まではすぐ。休むなら家でって思うじゃないですか。
重い足を引きずるようにして、駅の上りエスカレーターに乗った私。
気づいたら、寝ていました。
酔って横になるのって気持ちいいな…おふとんないのにふわふわするね…このまま寝よう…などと思っていたところへ、心配そうな「大丈夫ですか!」の声が耳に入りました。
私はエスカレーターの終点の金属製の踏み板にべったりと、マスク越しにほっぺたをくっつけて寝ており、駆けつけた駅員さんが慌ててエスカレーターの非常停止ボタンを押すのが見えました。
「急に倒れたんですよ」という声で、やっと事態をのみこみました。マジか、恥ずかしい!早く立って、歩かなきゃ。
「あっ、ゆっくり動かれたほうがいいですよ」駅員さんの声はなんとも優しいトーンで、申し訳なさがかき立てられます。
「吐き気や、めまいはありますか」
「いやっ、なんかほんとすみません…ご迷惑をおかけして…恐れ入ります…」
最悪に気持ち悪いけれど、よろよろと立ち上がることができました。
他のお客さんの邪魔にならない隅に移動し、床に体育座り。ああ、ラク。このままずっとこうしていたい。
なんてことが許されるはずもなく、「事務室で休んでください」「車椅子をご用意します」と声がかかり、目の前でてきぱきと車椅子が広げられます。せっかくのご厚意なのでありがたく、事務室までの5〜6mほどの距離を初・車椅子体験しました。
安全目標や標語が壁一面にかけられた事務室のソファに案内され、レジ袋を渡されます。気分悪い原因を出して多少すっきり。
持っていた水を少しずつ飲みます。まだちょっと不安だな。
さらにもう1本、「買ってきていただけますか」とお財布を取り出すと、「いえ、お金はいいです」と冷え冷えのペットボトルを差し出されました。
私は言い訳を始めます。「こんなふうに倒れたことはなくて。1杯しか飲んでいないし、自分でも信じられないです」
「えっ、1杯ですか?」
驚いた駅員さんが一瞬去り、再び顔を出すとこう言いました。「救急車を呼んだほうがいいと思います。うちとしても、このままお帰しして、何かあったら問題になりますし…」
「えっ、いや、それは必要ないです!私の家、歩いて1分なので帰れば休めますし、ほんと大丈夫です」
徒歩1分はちょっと盛りました。そして家が近いことと体調には関連がないよなぁと思いつつ必死で断ります。
「でも、今まで倒れたことがないとのことですし…1杯でというのも…」
「でしたら、あと10分こちらで休ませていただいて、それでも体調が戻らなければ、お願いするかもしれません」
駅員さんはうなずいて業務に戻りました。
この時は理解していませんでしたが、駅員さんは、てんかんなどの脳の病気の発作や、なんらかの重大な病気の可能性を考えていたのかもしれません。
2本目の水を飲み干した頃には胃の不快感もだいぶ鎮静化。それと同時にいろんなところが痛くなってきました。
両ひざがすりむけて、ストライプ模様の跡がついています。そうか、エスカレーターの階段にひざをぶつけたんだ。それに、右肩と、右ひじの先も痛い。これも倒れてぶつけたな。あごと前歯にも少しだけ痛みを感じます。マスクには小さな穴があいていました。マスクを着けていなかったら、顔に傷ができていたかも。
どうやらひざをついて次に右肩、最後に顔が着地したらしい。状況証拠から推理する過去の自分は、まるで他人のよう。おそらくほんの数十秒間のできごとですが、改めて、意識をなくすことの怖さに身震いしました。これがもっと危険な場所だったら…。
すぐ駅員さんを呼んでくれたお客さん、どなたか存じないですが本当にありがとうございます。
「記録を残す決まりなので」と日誌を手に、申し訳なさそうな顔で現れた駅員さん。倒れた状況を改めて説明、名前と電話番号を告げて、お礼を言います。
ゆっくりと立ち上がってみる。おっ、大丈夫そうだ。ソファの隅にペットボトル代を置き、汚物入りの袋はこっそり自分のバッグに回収し、我が家に帰りつくことができました。
ひざやひじのすり傷を消毒してオロナインH軟膏を塗ります。人間の皮膚は弱く、頼りない。それでも傷つくことで、Amazonの段ボール箱のように中身を守ってくれているんだな。
最大のミステリーは、なぜこんなに急にお酒が弱くなったかです。実は2週間ほど前にレモンサワーを3杯飲んだ日にも気分が悪くなり、駅の多機能トイレのお世話になったのです。多機能トイレは洗面所もスペース内にあり、うがいなどできるので、酔っ払いにはありがたい。
この時はカニアレルギーの私がカニ味噌を食べたせいだろうと自分を納得させていました(それも軽率でアホな話ですね)。
また、家飲みでも以前より回りやすく、抜けにくいなと感じていました。
もう明らかに、もともと弱いお酒がますます弱くなったとしか思えません。
この転倒事件、実はその後あちこちに影響が出まして、そんなに「ちょっとしたこと」では済まなかったので、次回に続きます。
果たして更年期と飲酒には相関関係があるのか、ないのか?
※編集部より:普段と異なる体調やふらつき・目まい等を感じた場合には、一時的に回復しても念のため内科クリニック等への受診を行いましょう