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2022.08.20コラム真貝 友香

【シネマと女とワインを一杯】chap.6 サマンサの異常な根性~または私は如何にして心配するのを止めてホルモンを愛するようになったか~

シネマと女とワインを一杯6

あと2時間遅く起きていられたら、もっと配信サービスを活用できるのにと切に思う。贅沢病だと笑われたこともあるが、移動中にスマホや小さい画面で映画やドラマを観られない性分だ。だったら自宅で夜に時間を作るしかないが22時前には眠くなってしまうので話題の作品には大体追いつけない。そのため連続ドラマを見ることは諦めているが、ママ友との会話で「U-NEXTのお試し期間で観てみたらやっぱりすごく面白くて!!ぜひ観てみてよ」と『Sex and The City』(以下、SATC)の続編シリーズ『AND JUST LIKE THAT...』をお勧めされた。いやいや配信には手を出さないようにしているからさ、と言ったものの、その直後に訳あってU-NEXTに登録する機会があった。1話が大体40分弱で10話完結。案外これイケちゃうんじゃないか?と見始めたらあれよあれよという間に完走。配信プラットフォームもコンテンツも群雄割拠の今、SATCがドラマ史に残したインパクトってすごかったのかもと改めて実感する出来事でもあった。

確信するよりも迷ってる方がいい

キャリー、サマンサ、ミランダ、シャーロット。ニューヨークを舞台に、ファッショナブルな装いに身を包み、仕事もナイトライフも謳歌する4人が繰り広げる赤裸々なガールズトークが後進に与えた影響力は途方もなく大きかった。洋邦問わず「ちょっとSATCっぽい」ドラマが量産され、女性が横一面に並ぶジャケットやポスターを見ると反射的に「SATCの二番煎じかな」と思ってしまった、非常に失礼な話だが。

SATCの続編が製作されるらしい、と聞いたのはもう2年近くも前だ。今もなお人気の高い作品だけに賛否両論は当然のことで、私の肌感覚では「すごく楽しみ!」と期待している人は周囲にほとんどおらず、やや否定的な意見が多かった。
2度目の映画化から10年余り経ち、アラフィフに達した彼女たちの恋愛模様をまだ見たいか?という疑問もあっただろう。恋愛がメインでなくなったら、健康や老後、介護、終活のような身につまされるトピックばかりになるのだろうか、当時ドラマの大ファンだった友人は「一歩間違えたら『やすらぎの郷』になっちゃうよ。若い子の共感は得られなくとも、同世代からは支持を得られるドラマにしてほしいよね」と零していた。そして、最も散見されたのは、サマンサを演じたキム・キャトラルが新シリーズには出演しないことへの不満だ。これも私の肌感覚だが、4人の中で一番年長かつ、行動も発言も一番大胆なサマンサは圧倒的人気のあるキャラクターだった。
そんなサマンサの不在の元凶は長きに渡って囁かれてきたキャリーを演じるサラ・ジェシカ・パーカーとキム・キャトラルの不仲のようだけど、真実は当人にしか分からない。
「サマンサのいないSATCはセックスが抜けた、ただのシティ」、これも散々目にした意見だが、4人が3人になれば単純にマンパワーが減っているわけで、かつてのようなパンチも足りなければ、精彩を欠いていたのは事実だ。とはいえ腐っても鯛と言うべきか、昔取った杵柄というべきか、身も蓋もないけど金のかかり方はすごい。シャネル、ヴィトン、グッチなど錚々たるハイブランドに着られた感じのない彼女たちは存在感があるし(以前はこんなに分かりやすくロゴをでかでかと出すスタイリングではなかったよねと若干戸惑いはした)、洗練されたインテリアや華やかなパーティシーンも健在。人種やジェンダーの多様性、熟年離婚や閉経、更年期にいたるまで今どきトピック全部乗せなのはちょっと力業すぎて空回りしている印象も否めなかったが、価値観をアップデートしようとする気概は十二分に感じられた。

絶大な支持を受けているものの、SATCが文句のつけようもなく完璧かというとそうでもない。登場人物が白人に偏りすぎ=”whitewashed”だとか、マイノリティが登場したかと思えば描写がステレオタイプだとか、エイジズムが強すぎるとか批判も数々見聞きした。もちろん時代による価値観や認識の限界はあるが、ソーシャルメディア時代以前の作品だったんだなあとは思う。表現に配慮が行き届いている上に、内容も面白いコンテンツがいくらでもある今、あえて続編に挑むのはかなりチャレンジングだが、時代に即した形で届けるために試行錯誤していることは伝わる。
今シリーズの要となるのがチェというスタンダップコメディアンの女性で、彼女がステージでセクシュアリティやアイデンティティについて語ったあと、こう締めくくるシーンがある。

“I say better to be confused than to be sure.”

―確信するよりも迷ってる方がいい

今シリーズのエッセンスが詰まっている感じがして、すごく好きなセリフだ。しかしまだまだ生き惑う中でもキャリーはハイヒールを履き続けているのは一切ブレがない。私自身は「おしゃれは我慢」と思わなくなって久しいが、キャリーのハイヒールに対する見事な執念が気になる人はぜひチェックしてみてほしい。

トレンドセッターはいつも孤独

たいそう『AND JUST LIKE THAT...』に満足した後、サマンサの弾けっぷりが見たかったので、劇場版映画の『Sex and The City2』を久しぶりに鑑賞した。
劇中のサマンサは52歳で更年期真っただ中。ホルモンを補うために1回に40錠以上サプリを飲んでいたり、好みの男性に遭遇しても下半身が疼かないと嘆いたり、一挙一動がコミカルに描かれている。
仕事にプライベートにとそれぞれくさくさした思いでいた4人は思い切り羽を伸ばそうとアブダビに旅行するも、サマンサは必需品である大量のホルモン剤を「違法な薬物」と誤解されて没収されてしまう。灼熱の中東で汗だらだらで全身の火照りに耐える姿は劇場鑑賞時から印象に残っていた(今やみんな携帯しているハンディファンをいち早く持っていて、「さすがサマンサ、トレンドセッターだったんだな」というどうでもいい発見もあった)。

私が映画の中ではっきりと「更年期」という言葉、およびその症状に苦しんでいるキャラクターを認識したのはこの作品が初めてで、それ以降ずっと「更年期=サマンサがSATC2で悩まされていたやつ」とぼんやり記憶していた。
情報発信が進み、誰にもホットフラッシュが起こるわけではなく、その顕れ方は千差万別ということも近年分かってきたのだけど、少なくとも2010年当時、世間に更年期をオープンに語れるムードはなかった。渦中にいるサマンサはきっと不安で、何より孤独だったのだろう、と今にして想像ができる。
必死でホルモンを補充する様子を4人の中で一番コンサバなシャーロットに「そこまでしてまだセックスしたいのか」と呆れられる場面もあったけど、彼女にとってホルモン不足はまさに死活問題。キャリーが是が非でもハイヒールを履きたがるように、サマンサにはワンナイトスタンドが必要だったわけで、ここもまたSATCはソーシャルメディア時代以前の作品だったことを痛感する部分だ。


『AND JUST LIKE THAT...』はシーズン2の制作が決定して、今秋にもクランクインするそうだが、様々な憶測が流れても、キム・キャトラルからは出演するともしないとも公式なアナウンスは一切ない。Netflixの“Glamorous”というドラマにメーキャップの大ベテランという役柄で出演予定ということが先日報じられていたので、サマンサの復活はないんだろうなと思う。ただ、彼女がその後どのように更年期と向き合い、乗り越え、脱したのか、誰かの口伝いではなく彼女自身から聞いてみたかった。いや、知りたいのは1回40錠のサプリが本当に必要だったのかどうかだけだけど…。

真貝 友香(ライター)

ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。
妊娠出産を機にフリーライターとして活動。子育て、教育、キャリア、テクノロジー、フェムテックなど幅広く取材・執筆中。

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