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前回のコラムで女性の映画監督は男性に比べて圧倒的に少ないことについて触れたが、米サンディエゴ大学の研究センター「Center for the Study of Women in Television and Film」の最新調査結果によると、2022年の興行収入トップ100に携わった映画監督のうち、女性は11%であった。(※1)2020年に16%と史上最高の数字を記録したものの、以降また微減しており、「えっ女性監督少なすぎ…!?」と驚き半分、腹落ち半分でもある。2023年は『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』『バービー』など女性監督作品が印象的だったので、もっと女性が撮ったらいいのにな~と考えていたら、そういえばドリュー・バリモアはまた映画を撮ることはないのだろうか、とふと気になった。ということで今回は以前から書きたかったドリュー・バリモアについて語ります。
ドリューといえば言うまでもなく『E.T.』。迷子になった宇宙人E.T.を守ろうとお兄ちゃんたちと奔走する少女ガーティを演じたドリューは天使としか言いようがない愛らしさを放っていた。しかし俳優一族に生まれた天才子役としてはかなり順当に…というと語弊があるけど、早々にグレてしまった彼女はアルコール、ドラッグなど荒みまくりのティーンエイジャーとなる。一方、リカバリーもものすごく早く、二十歳そこそこでキャリアを取り戻し、ロマコメ映画に多数出演、プロデュース業にも着手して、30代前半で『ローラーガールズ・ダイアリー』を初監督している。
プライベートも濃密で、3度目の結婚相手との相手に2女をもうけたのち離婚。俳優との交際歴も豊富だったが、当時駆け出しだったザ・ストロークスのドラマーであるファブリツィオ・モレッティと長く付き合っていたので、ストロークスファンの私は、「多分ドリューはものすごくいい女なんだろうな」と確信していた。ちなみにファブリツィオはドリューとの破局後、『ローラーガールズ・ダイアリー』に出演していたクリステン・ウィグとも付き合っていたので、あちらのショウビズ界も随分手近なところでくっついたり離れたりしているなあというのが正直な感想だ。
さておき、近年はあまり俳優業には精を出さずビジネスパーソンとして躍進しているドリュー。自身がホストを務める「The Drew Barrymore Show」での話術の巧みさは以前、トニ・コレットの回でも言及した通りだ。
2020年に始まった当番組は、キャメロン・ディアスやキアヌ・リーブスといった俳優陣から、ヴィクトリア・ベッカム、ミシェル・オバマなどゲストの豪華さで、すでにご長寿番組のような貫禄を感じる。全米で放送されているが、収録を行っているのがニューヨーク・マンハッタンというよしみで、「AND JUST LIKE THAT…」のシーズン2にもこの番組が登場。ゲストによっては、ジェンダーやセックス、エイジングなどプライベートに関するトピックにもディープに語り合っているので、ずっと夜の番組だと思っていたのだが、現地時間では朝9時から放映していると知って驚いた。同じ放送局の朝番組「CBS Mornings」では自らの更年期についても詳らかに明かしている。
閉経周辺期にあることをドリューが気づいたのは月経が2週間おきに来たときだと言う。まるで10代の時のように経血量が多かったこと、医者には「最悪の場合、それが10年続くかも」と言われて、「10年も続いてたまるか!」と豪快な口調で返したり、司会者のガイルには「私は10年続いたのよ」と返され、うなだれてしまったりのリアクションがなんともドリューらしい。
「更年期という言葉は知っていたけど、閉経周辺期なんて言葉知りもしなかった」と明かすガイルはホットフラッシュに長く悩まされていて、レッドカーペット上で汗がしたたり落ちてフォトグラファーに「大丈夫!?」と心配されてしまうレベルだったと言う。導入こそユーモラスだったこの会話は「更年期に突入すると、あの人はもう終了みたいな感じになるのは好ましくないよね」「40代、50代、60代の女性は本来もっと魅力的だし生き生きしているもの」とどんどん白熱していくのが頼もしい。
一方で、ガイルは「私の母は更年期の症状がすごく重くて、バカンス中に白いパンツを履いていたら血が漏れたことがあったけど、『大丈夫、大丈夫』とその件で一切会話をしてくれなかった」と上の世代には確実に存在していたタブーについても言及している。「子どもたち、男の子にも正しい知識を教育していかないとね」「男の子に“オエ”って態度取らせたくないよね」と意見が一致していたし、更年期やもっと大きなジェンダーの議論が日本より進歩、成熟しているように見える欧米圏でも、先入観や固定観念の根深さは意外と共通のテーマかもしれない。
最後にレポーターのニッキーに「更年期を一言で表現するとしたら?」と問われてガイルは“reality(現実)”、ドリューは“natural(自然)”と締めくくっているのは、さすがの表現者という感じ。何よりこのトークを下支えしているのは、飾りっけなく、何でもぶっちゃけてくれるドリューの正直さだと実感した。
ところが、その正直さゆえに災いを招いてしまうこともある。2023年9月より「The Drew Barrymore Show」は第4シーズンへの更新が決定していたが、シーズンオフ中の2023年5月に全米脚本家組合(WGA)のストライキが開始、7月には全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)もストライキに突入した。俳優陣も脚本家も一様に活動の中断を余儀なくされていたが、9月に入ってドリューはまさかの番組の収録を再開するとInstagramにてアナウンス。ドリューは番組ホストとエグゼクティブプロデューサーという立ち位置のため、番組に出演することには問題がないとしても、製作を担っているメンバーにはWGA所属の脚本家もいる。彼女なりに思惑があっての発言だったのだろうが、スト破りとしてみるみるうちに非難が集中した。
その後、ドリューはInstagramの投稿を削除、考えを改め、「傷つけてしまった全ての方や、一生に番組を作ってくれている素晴らしいチームへ深い謝罪を表明します」と新たに声明を公開した投稿も現在は削除されている。
すでに削除された投稿の、普段のドリューとは違う神妙さから察するに、相当なバックラッシュだったに違いない。親しみやすさが魅力だっただけに、寝返ったと受け取る意見もあるだろう。それでも、直ちに発言を撤回できるのは彼女の人柄だなと素直に思える。社会的地位が高くなるとなかなか自分の非を認めるのも難しい局面もあるだろうけど、墓穴を掘るとか火に油を注ぐことなく謝罪に徹したのも正直さゆえ。そこからほどなくして脚本家ストライキが、そして俳優ストライキも先ごろ終結したので、もうちょっと待っておけばよかったのに…と他人に言われるまでもなく身に染みてはいるだろう。支払う代償は大きそうだけど、いくつになっても人生ってアップダウンやトラブルがつきものだなと、こちらとしては学びもあった。ドリューのこういう人間臭いところが好きだし、教訓を得た番組がより良いものになってくれたらと願わずにはいられない。
「The Drew Barrymore Show 」
https://www.youtube.com/@TheDrewBarrymoreShow
※1
https://womenintvfilm.sdsu.edu/wp-content/uploads/2023/01/2022-celluloid-ceiling-report.pdf