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2021.08.31コラム真貝 友香

【シネマと女とワインを一杯】chap.2 カサンドラとニーナ、オータムとスカイラー、そして私の場合

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女の人生、闘いが必要

7月某日。涙でべしょべしょになりながら、渋谷センター街のドトールでミラノサンドBを食べた。思い出すたびに涙が出てしまう。私たちは勝てないのか、立ち上がれないのか。
映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」が私に残したのは耐えがたい悔しさと虚しさだった。

「この世の醜い悪を退治してくれよう桃太郎」じゃないのかよ

2021年4月に発表された第93回アカデミー賞は「ノマドランド」で作品賞、主演女優賞に次いで、初の有色人種女性として監督賞も受賞したクロエ・ジャオと、この「プロミシング・ヤング・ウーマン」のエメラルド・フェネルが監督賞にノミネートされた、つまり監督賞に女性が2名ノミネートされた史上初の回としても報じられてきた。
ハリウッド映画、特にアカデミー賞があまりに白人男性優位であることが問題視されて久しいが、監督賞こそ逃したものの、本作品が脚本賞に輝いたことは個人的なハイライトでもあり、劇場公開を楽しみにしていたのだ。

「プロミシング・ヤング・ウーマン=前途有望な若い女性」というタイトルが示す通り、主人公のカサンドラ(キャリー・マリガン)と親友のニーナは医学生として将来を約束される優秀な女性たちだった。しかしニーナを不本意な形で失ってしまったカサンドラは、大学を辞め、コーヒーショップで働いている。夜はバーに赴き、女性に危害を加えようとする男性たちに罰を与えていく。
予告編では「復讐エンタテインメント」と謳われていて、バックに流れるブリトニー・スピアーズの大ヒット曲「Toxic」のストリングスバージョンがもたらす緊張感も半端じゃない。桃太郎侍ばりに悪を斬るキャリー・マリガンを期待していた、た、た、のだが…。

予想を裏切られ、かつ返り討ちにあったようなショックでぺしゃんこになりながらも、とりあえずミラノサンドBとアイスコーヒーを流し込み、もう1本見る予定にしていた「17歳の瞳に映る世界」の上映に向かった。

「いや、何でそのセーター入れてきたんだよ」

主人公は望まぬ妊娠をした、17歳の少女オータム。彼女が住むペンシルバニア州では法律上、未成年は保護者の同意なしでは中絶手術を受けることができない。家族とうまくいっていないオータムは妊娠を知られたくないことから、お隣のニューヨーク州で手術を受けることを決意する。親友であり従姉妹のスカイラーとともに高速バスに乗って旅に出るというストーリーだ。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」の衝撃で麻痺してしまったというのも変だけど、「17歳の瞳に映る世界」は幾分私にはマイルドに感じられた(比較の問題なので、これ単体は非常にシビアでヘビーだが)。
しかしオータムとスカイラーの危なっかしさと言ったらなくて、スマホこそ持っているが検索しても一次情報には辿り着く術がない。行く先々でもハプニング頻発、こちらが懸念する嫌な予感が全て的中していまう。
スカイラーが道中で引いているキャリーケースはその象徴だ。従姉妹を放っておくわけには行けない、私も一緒に行く!と意気込んで着替えを詰め込んで家を出るものの、不慣れな土地とキャリーケースはあまりに相性が悪すぎる。サブウェイの改札を通り抜けられなかったり、雨の中引きずらなくては行けなかったり、階段を上るのに持ち上げたりと、行動がもたついてしまうところに彼女たち経験値の少なさが露になる。

「機動性考えてふつーバックパックで行くでしょ…!オータムはそうしてるのに何で自分だけキャリーケースなの…」と旅慣れた大人としてはうなだれそうになるし、キャリーケースを占有する分厚いセーターは出番がなくて、「じゃあ何で持ってきたんや!!」と総突っ込みだ。しかし知識不足も経験値の少なさも決して彼女たちの責ではない。本来庇護されるべき彼女たちが、自分自身で解決しなければならない状況に追い込んでいるのは周囲の大人なのだから。

「巻き込まれないこと」がプライオリティじゃない

一方で、オータムとスカイラー、そしてカサンドラとニーナが十分な教育や支援を受けられてさえいれば、望まぬ妊娠や性被害や暴力を未然に防げたのかというとまた別の問題だ。性教育は必要不可欠ではあるが、絶対の存在にはなってくれない。
不運に巻き込まれないためには出会わないしかないわけで、そうなると私たちはVRの世界に生きるしかなくなってしまう。

あまりにも苦いこの2作が教えてくれるのは、男と女という対立構造に帰結する問題ではないということだ。
女性として不当な扱いを受けたことはもちろんあるが、自分自身は何にも加担したことがない、清い立場なのかというと答えはノーだ。キャンセルカルチャー(※著名人の過去の言動などを問題視して現在の地位にふさわしくないとし、立場を退かせようとする行為)という言葉が知られるようになった昨今だが、誰しも思い当たる部分があるのではないだろうか。
女性だから男性だからじゃなく、大人だから子どもだからでもない。誰もが被害者にも加害者にもなり得るリスクと自身の暴力性を意識する必要がある。
だったら「巻き込まれない」ことだけを最優先にするんじゃなくて、私たちはそれぞれの形で、いつだって拳を挙げられるようにしていなきゃいけない。
カサンドラの怒りを溜めた瞳、オータムとスカイラーの諦観と疲れが混じり合った瞳が、これは私の物語であり、これから成長する子どもたちの物語でもあり、あなたの物語でもあることを伝えてくれる。

心の中でだけでもカサンドラのように「Hey,I said.”What are you doing???” (ねえ、何してんのって聞いてんだよ) 」ってドスのきいた声で言えるようにしておこう。

真貝 友香(ライター)

ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。
妊娠出産を機にフリーライターとして活動。子育て、教育、キャリア、テクノロジー、フェムテックなど幅広く取材・執筆中。

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