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2021.11.18コラム真貝 友香

【シネマと女とワインを一杯】chap.3 リドリー・スコットはお好き ~キャリアハイにはまだ早い~

[テーマ]#読みもの#連載
テルマ&ルイーズはマイベストシスターフッドシネマ

こんな大別の仕方が道理にかなっているかは分からないが、ある監督の作風を「フェミニン」か「マスキュリン」に分けるとしたら、「エイリアン」シリーズを筆頭に「ブラック・レイン」「ブレードランナー」「グラディエーター」「オデッセイ」などを手がけたリドリー・スコットは間違いなく「マスキュリン」の方の監督だと思う。
「エイリアン」は映画そのものを観たことがない人でも、ビジュアルイメージは何となく想像つくだろう、SF、ホラー、パニックなど多岐に渡るジャンルの草分け的存在だ。未だにそのテの映画に出てくる地球外生命体や人類を脅かすクリーチャーというと大体サンプリング元はエイリアンなんだろうなという見た目をしていて、気鋭のクリエイターたちもエイリアンの影響下からはなかなか逃れられないことがよく分かる。
ともかくリドリー・スコットは巨匠とか重鎮といって差し支えない存在だが、その御大が現在83歳にして未だに最高傑作を更新しているので今回はその話をします。

騎士物語かと思いきや#MeToo だった「最後の決闘裁判」

「最後の決闘裁判」は、14世紀のフランスで、実際に執り行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした物語。騎士カルージュは妻マルグリットに性的暴行を働いた、かつての盟友ル・グリを訴えるも、ル・グリが無実を主張したため、真実が生死を賭けた「決闘裁判」に委ねられることになる。つまり決闘の勝敗が、主張の正誤を意味する「そんなシステムあり!?」なジャッジメントで、敗者は闘いに敗れるだけでなく、偽証の罪で火あぶりにされてしまう。所謂「史劇」というカテゴリで、普段の私だったら割と避けがちな作品でもあるが、映画ファンの間ではかなり高評価だったのでいそいそと観に行ったら、完全にテーマは#MeToo運動だった。

カルージュ(マット・デイモン)、ル・グリ(アダム・ドライバー)、マルグリット(ジョディ・カマー)それぞれの視点で進行する3部構成になっていて、語る者によって事実がどう解釈されるか、どこで認識の齟齬が発生し、歪められていくかが見物だ。
常にお互いの権威や優位性を誇示し合う男性の傍らで、従属物のように扱われる女性。時にその価値観を内面化した女性同士が対立することもある。
どのように凌辱されたかを公衆の面前で事細かに公表しなくてはならないマルグリットの姿に「中世ヨーロッパあな恐ろしや…」と身震いしたものの、この縮図、現代にも脈々と受け継がれているじゃないかという気づきが更に私を硬直させた。
齢83歳にしてリドリー・スコットが男根至上主義の愚かさに警鐘を鳴らすことに驚かされるし、どれだけ暑苦しい、男臭い映画を撮り続けても、彼は決して女性を食い物にしないし、男も女も、老いも若きも、地球人も宇宙人も、何もかもを平等に捉える人なんだったと改めて実感した。
結末はネタバレしないが、終盤にマルグリットが表情と視線だけで見せる彼女の思惑が凄まじい。153分となかなか長尺だが、見て損はないと太鼓判を押す1本です。

「テルマ&ルイーズ」はやっぱりマイベスト・シスターフッド映画だった

リドリー・スコット作品で何が好き?という話になったとき(映画ファン仲間と話すとそういう話題になるんです)、真っ先に私は「テルマ&ルイーズ」と答える。
専業主婦のテルマと、ウェイトレスで独身のルイーズが、ちょっと非日常を味わうために週末のドライブに出かけたはずが、羽目を外した勢いで殺人を犯してしまい、あれよあれよと逃避行になってしまうロードムービー。ブラッド・ピットの出世作でもあるし、シスターフッドという言葉もなかった時代から、女性同士の関係性を描いた作品としても、そしてアンチヒーローものとしても一番好きな作品だ。この度リバイバル上映があって早稲田松竹で観てきたのだけど、私にとっては初めての劇場鑑賞だったのもあり、最後はしゃくり上げるように泣いてしまった。

モラハラ夫に耐えかねる一方で自分からは何も行動できないテルマ(序盤では絶えずチョコバーをかじっていて精神的に不安定なのが窺える)も、自立しているように見えてここぞという時に弱いルイーズも、全くスーパーウーマンではない、標準的な女性だ。
酒場でテルマを襲おうとした男をルイーズが撃ってしまうことから、まさに転落してしまう、捉えようによっては悲劇なのかもしれないけど、サバイブするために彼女たちが一喜一憂しながらも、男性優位な社会の抑圧から解放され、どんどんイイ表情になっていく様に快哉を叫ばずにはいられない。

作品の後半、夜明け前に車を走らせるシーンで流れBGMはマリアンヌ・フェイスフルが歌う「ルーシー・ジョーダンのテーマ」だ。

“At the age of thirty-seven she realized she'd never
ride through Paris in a sports car with the warm wind in her hair”
[37歳で彼女は気づく 暖かい風に髪をなびかせスポーツカーでパリを走ったことがないことを]

このフレーズは、田舎でひっそりと生きていくしかなかった、ここ以外のどこかに行けるなんて夢想することもなかった彼女たちと完全にリンクしている。
引き返せないところまできてしまった彼女たちの、悟ったような穏やかな表情を捉えただけでも、やはり私にとってリドリー・スコットは信頼に値する監督だ。
再度になるが、キャリア初期のブラッド・ピットがとにかくチャーミングで眩しいのでそれだけでも一見の価値アリだとこちらも太鼓判です。

今もなお精力的にコンスタントに撮り続けるリドリー・スコットの最新作は「ハウス・オブ・グッチ」。
イタリアンブランドGUCCIを営むグッチ一族の崩壊を描いた実話に基づくストーリーで、3代目社長マウリツィオ・グッチを「最後の決闘裁判」にも出演したアダム・ドライバーが、マウリツィオの妻パトリツィアをレディ・ガガが演じる。
トレーラーだけでも、笑ってしまいそうになるくらいレディ・ガガのファッションもヘアメイクもめちゃくちゃ豪華、というか相当クドい。

一家の命運を左右する彼女がどのように描かれるのか、ご多分に漏れず濃いその他のキャストとどう関わっていくのか。見るからに高カロリーなこの作品の公開を楽しみに待っているし、まだ監督がキャリアハイには達していないんだろうと期待を寄せている。


最後の決闘裁判 https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kettosaiban

ハウス・オブ・グッチ https://house-of-gucci.jp/

真貝 友香(ライター)

ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。
妊娠出産を機にフリーライターとして活動。子育て、教育、キャリア、テクノロジー、フェムテックなど幅広く取材・執筆中。

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