更年期のカンテラ世代にとって、毎日摂る食事は若いころよりも健康に影響しやすくなっています。カロリー、ビタミン、ミネラル……気を付けているつもりでも、知らないこともたくさん。私たちに今必要な栄養の話を、カンテラの一部記事で監修をお願いしている西岡笑子先生、管理栄養士の長谷川さんと始めました。初回ご紹介するのは、「等身大の食事事情」です。
──今日は皆さんと食事や栄養についてお話しできればなと思っています。早速ですが、西岡先生はご多忙な毎日の中で食事はどんな風にされていますか?
西岡先生(以下敬称略):新学期のあわただしい日々がようやく落ち着いてきた感じです。ただ、看護の現場を離れて今はデスクワークがメインなので、1日3食しっかり食べていたらすごく太ってしまうというのを以前経験したんですよ。そこから朝昼晩のバランスを見直しました。ただ起床が4時台なので、朝ごはんでは栄養をしっかり摂るようにしています。その分、お昼はお腹いっぱいにならないよう、軽めにしていますね。お昼を食べすぎると頭が働かなくなってしまうので……。
──デスクワークの人にとっては永遠の課題ですね。私も日々気を付けています……。
西岡:更年期太りや代謝が落ちていることを考慮すると、晩御飯の時間もあまり遅くならない方がいいのですが、日中は授業や会議に追われ、勤務時間後に集中して取り組まなければならないことも多く、後ろに傾いてしまうこともあります。この世代に多く見られる傾向かもしれませんね。
──確かに、子どもの年齢によって親の生活リズムも変わってきますもんね。今は大体何時頃帰宅される生活ですか?
西岡:私は結構、勤務終了後の17時過ぎに夕方にスイッチが入ってしまって「この作業がひと段落しないと帰れない!」ってストップできなくなってしまうことがあるんです。ただ、前の職場は夜遅くなると電車の本数が減るとか乗り継ぎが悪くなってしまうので、19時くらいにはパソコンをシャットダウンしようと努めていました。でも帰ると疲れ切っているので、とりあえず寝る前にはお腹を満たしたくなってしまうんですよね。
──この世代の方たちにヒアリングしていると、日常的に晩酌する人が非常に多いんですよ。ただ、カロリーが気になるから低糖質オフを選んでいるという声も多いです。
西岡:私も教員になったあたりから飲酒することが割と多くなりました。最近は仕事が終わったらオフにするぞ!業務終了!という感じでお風呂上りにプシュッとすることが習慣になってしまいました。
それでも毎日体重は計って、カンテラアプリに記録しているので急に5キロも増えていた!みたいなことはないんですけど、数年前から少しずつ増量しています。22時過ぎに夕食を摂る日が続くと、やはり増量してしまう傾向があるので、遅くとも21時台には夕食を摂るように心がけています。アプリで、なだらかな右肩上がりのグラフを見ると、「今夜は早めに帰宅しなきゃ」と自覚させてくれます。やはり、「見える化」することって大切ですね。
──代謝が落ちている自覚は私もあります……。やはり食事の調整だけでなく運動も必要ですよね。
西岡:防衛医大では私の身分は自衛官だったので、持久走とか腕立て伏せなどの体力検定に合格する必要があったのです。私は学生時代、水泳部に所属していたんですけど、社会人になってからは、もうずっと仕事だけの生活だったから、ほとんど運動していなかったんですよね。そこから、体力検定をきっかけに週末に6キロ走るようになってからは何もしないと違和感あるレベルにまで到達しましたよ。
ただ、私は過多月経で、健康診断でここ数年ヘモグロビンの値が低下しつつありました。1年半前には、10.5g/dL前後ということもありました。鉄剤を処方されるほどの値ではなかったのですが、その時は、「最近疲れやすくなったな、更年期だからかな?気力が湧かないときもあるし、もしかして、ちょっとうつっぽいのかな?」と思ったりもしていたんです。走っていてもすぐに息切れしてしまってなかなかタイムが伸びないということもあり、親しい婦人科の先生に相談したら低用量ピルを処方してくれて、継続的に飲んでいたら半年くらいで、ヘモグロビン13.6g/dLまで改善して、貧血症状も治まりましたし、走っているときのタイムが6キロ32分にまで更新されて、軽快にランニングができるようになり、走ったあとの爽快感がたまらない、という感じになりました。ランニングだけでなく、仕事をしていても、みるみる力とやる気が湧いてくる感じがあって、貧血が改善されるって素晴らしい!って身をもって実感しました。
※WHOの貧血の基準では、 女性はヘモグロビン(Hb)12.0g/dL未満で貧血と診断されます。
──すごい!!かなり本気の走り込みかたじゃないですか。女性アスリートと月経の問題、最近よく話題になっていますが、そこまでパフォーマンスに影響するとは。
西岡:走るたびに更新するから楽しくてたまらなくなってしまったのですが、一緒に走っている夫には「置いていかれるからもう一緒には走りたくない」って言われてしまいました。これまで散々婦人科に行きましょうとかピルの服用を推奨してきた立場なのに、自分が貧血だったというのもお恥ずかしい話ですけどね。
──私も同じく過多月経なので、若いうちからピルを飲んでおけば良かったかもと今更ながらに思っています。とにかくレバーが苦手で、食べ物で貧血対策するのがほぼ無理なんですよね。これさえ食べておけばOKみたいな万能薬のような食品はないと分かった上で質問しますが、この世代の女性にとっての理想的な食生活ってどういうものか、長谷川さん教えていただけますか?
※注:鉄分を多く含む食品はレバーだけではありません
貧血を予防するには、日頃から赤血球・ヘモグロビンを作るための鉄・亜鉛・葉酸・ビタミンB12などの栄養素をバランスよく、食事から摂るように心がけましょう。
栄養素 | 多く含む食品の例 |
鉄 | レバー(豚・鶏)卵黄、煮干し(かたくちいわし)、あさり、しじみ、小松菜、ほうれん草、きな粉、湯葉、ごま、切り干し大根、きくらげ、ひじき、のり、ココア、小麦胚芽など |
亜鉛 | 牡蠣、するめ、牛肉、豚レバー、ナチュラルチーズ、小麦胚芽、鰹節など |
葉酸 | のり、海藻類、レバー(豚。鶏・牛)大豆類、ドライマンゴーなど |
ビタミンB12 | 白鮭、しじみ、煮干し(かたくちいわし)、あさり、レバー(鶏・牛)など |
長谷川:栄養士の立場からさまざまな年代の方とお話ししてきた中で「バランスの良い食事を心がけましょう」というアドバイスひとつ取っても、人によって捉え方が異なるなと感じました。ですから、あえてその表現は使わない方がいいかもと思っていましたね。
ただし、年代別に見ていくと、仕事が軌道に乗ってくる30代はストレスも増えてきて、ゆっくり料理や食事に時間を割きづらくファストフードやお弁当で済ませることが多いとか、40代だと子育ても忙しく、子ども優先の食事になってしまうとよく聞きます。
疲れやすくなるのも、タンパク質やミネラルが不足しているケースが多く、忙しい分、自分のことをちょっと蔑ろにしてしまいがちな世代なのかもしれませんね。そして、子育てがひと段落した50代あたりに、それまでの積み重ねが反映されることが多いです。
一概に年齢だけでは括れませんし、ヘモグロビンが10g/dLでも経過観察って人もいれば、すごく不調な人もいるのが実情ですね。
だから何か不自由を感じたときには、要因は何だろう?自分には何が足りないだろうって改めて考えてみてほしいですね。
西岡:貧血って徐々に進むので、値が低くても本人に自覚症状がないことも結構ありますよね。会社の健康診断や人間ドックなどで異常値が出て、初めて気づかれる方も多いです。貧血の原因はさまざまで、貧血を引き起こす病気が隠れていることもあります。(栄養素の不足、骨髄の病気、腎臓の病気、大量の出血や出血の持続、赤血球の破壊など)
私のように、月経が貧血を引き起こしていることもあります。過多月経の原因としては、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮体がん、子宮頸がんなどの器質性疾患によるものと、女性ホルモン分泌の異常による無排卵周期症や黄体機能不全などの機能性疾患によるものがあります。カンテラ世代では、閉経前の40代とホルモンバランスが乱れやすい年代に多く見られます。そのほか、止血・凝固機能の異常をきたす特発性血小板減少性紫斑病、白血病のほか、肝機能障害などの内科的疾患もありますが頻度は多くありません。
(後編につづく)
後編は、長谷川さんの食事事情と、最適な食事スタイルの見つけかたについてお話を進めていきます!
取材協力:管理栄養士 長谷川 奈央