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メノポーズ・ガーデン ―池田先生に聞く更年期とトータルヘルスケア― vol.1

メノポーズ・ガーデン vol.1

近年、著名人も語る機会が増えた更年期についての話題。オープンな空気が醸成されつつある一方、更年期治療に漠然と不安を抱いている女性も依然として少なくはありません。医療法人心鹿会 海と空クリニック京都駅前で院長を務める池田裕美枝先生は英国と米国でSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)(※1)の知識を深め、日本でも更年期をはじめとする女性の悩みに寄り添う診療を続けています。欧米における更年期の認識や治療に対するアクセシビリティや、池田先生が目指すトータルヘルスケアについてお話を伺いました。

女性内科を目指していたけど、内科では内診を学ばないことに疑問

編集部

今日はお話よろしくお願いします!池田先生は元々内科医でいらしたところを産婦人科に転向されたのですね。

池田裕美枝先生(以下、池田)

そうなんです、大学を卒業する頃から女性内科を診療したいと考えていて、内科医か産婦人科医か、どちらから始めるのがよいか迷っていました。特定の臓器を対象とするのではなく、患者さんが抱える健康問題について幅広く対応する総合診療科が出来始めた頃のことです。私が初めて研修を受けた病院は米国式の研修医制度をいち早く導入していて、アメリカから来ている先生たちが研修医を指導としてベッドサイドティーチング(注2)を熱心に行っていたんですよ。

編集部

それは研修医の育成が目的で行われているのですか?

池田

若い医師には、その診療にどんな意味があるのか、検査のリスクアンドベネフィット、患者さんにとってどう価値があるかなどを理論立てて頭を考えていくステップが必要です。
アメリカでは日本と比べると教育全体の価値も非常に高く、研修医への教育も重視されています。知識が豊富なだけではなく教えることにも長けている先生が多くいるので、私もアメリカ人の先生のもとで研修を受けることができました。
「いつか私は女性内科をやりたい」と話すと、だったら総合内科を目指すべきだと言われたんです。アメリカには内科のサブスペシャリティに呼吸器内科、消化器内科のように女性内科があってウィメンズヘルスホスピタルも多いのだと。日本もきっと近い将来そうなるだろうなと思って、総合内科から研修を始めました。
とても充実していたし学ぶことは非常に面白かったけど、実は日本では内科の研修システムでは内診を扱わないんですよ。ゆくゆくは女性内科を診療したいのに、これでいいのだろうか?とふと思ってしまったんです。

編集部

内診は産婦人科のみ行うということですか?

池田

アメリカだと総合内科の先生は、最低限内診もするんですよ。お腹が痛いって言っている患者さんが盲腸なのか卵巣捻転なのか内診してみないと分かりませんよね。最初は総合内科で診てから、その後、連携する先が産婦人科なのか消化器内科なのか判断するのが一般的です。
産婦人科医も数が多くないので、それぞれの領域を踏み超えて診察できるのが理想的ですが、日本では産婦人科医以外が膣内に物を入れるということがタブー視されている傾向があります。とても特殊な領域だと見られている部分があって、そこを超えるハードルが高いんですよね。
医師臨床研修制度が必須化されてから研修医は様々な診療科を回るようになりましたが、私より少し上の世代だと産婦人科の先生が研修医時代に内科の研修を受けていないということもあって、たとえば妊婦さんが妊娠糖尿病のリスクを抱えていると、自分自身でインシュリンのコントロールをするのではなく、糖尿病内科に連携するようなケースもありました。とはいえ、患者さんの立場からすると、産婦人科は混んでいるところも多いから、内科のついでに産婦人科も一緒に診てもらえたらいいなという意見もあると思います。ニーズはあるはずだけど、大々的にはできていないのが現状でしたね。
ただ、私は最低限内診ができないといけないと思ったので、市中病院(注3)で産婦人科の研修に入らせてもらったのですが、産婦人科も非常に面白い領域だと感じました。

産婦人科研修で気付いたSRHR啓発の必要性

編集部

志願して産婦人科研修を受けられたのですね。すごいバイタリティです。

池田

日々、いろいろな女性を診察する中で、健康に対するリテラシーが高いとは言えない妊婦さんにも出会いました。あまりに妊娠中の体重増加が著しいので日頃の食事内容を聞いてみたらカップラーメンとポテトチップスばかり食べているような事例がいくつかありました。
決して彼女個人が不摂生という話ではなく、幼少期から食事を作ってもらえる生育環境ではなかったから、健康的な食事がどういうものか想像がつかないと言われてとても驚いたんですよね。
少なくとも私の周囲にご飯を食べさせてもらえない人はいなかったですし、教育格差によるものなのか経済格差なのか情報格差なのか分からないけど、日本でこんなことがあるのかと戸惑いました。
そのほかにも中絶や性感染症を繰り返す女性、性暴力に遭っている女性……さまざまな女性を診ていく中で、SRHRを啓発する必要性を強く感じたんです。SRHRがもっと世の中に浸透すれば、改善できることがたくさんあるんじゃないかと思いました。
そして産科と内科両方のスペシャリティを持った後、一時期、両方の外来を診ていたのですが、私が目指していた女性のトータルヘルスケアを実現できている感じがしなかったんですよ。内科は内科、産婦人科は産婦人科で、鑑別診断の実績は増えていったけど、これが本当にやりたかったことなのだろうか?と疑問に思う日々を過ごしていましたね。

<後編に続く>

(注1)SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ):性と⽣殖に関する健康と権利
(注2)ベッドサイドティーチング:教授が病室で患者を診察しながら医学生に授業を行う指導方法
(注3)市中病院:一般病院


池田 裕美枝(いけだ ゆみえ)先生
医療法人心鹿会 海と空クリニック京都駅前 院長

京都大学医学部卒業。市立舞鶴市民病院、洛和会音羽病院にて総合内科研修後、産婦人科に転向。三菱京都病院産婦人科、洛和会音羽病院産婦人科、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科、京都大学医学部附属病院産婦人科特定助教を経て、京都大学大学院医学研究科健康情報学博士課程単位取得退学、研究員。
現在PMSによる社会へのインパクトや、女性を中心とした社会的処方などの研究に取り組む。
2011年英国リバプール熱帯医学校にてリプロダクティブ・ヘルスディプロマ修了。
2013年米国内科学会プログラムにてメイヨークリニックで女性内科研修。
産婦人科専門医 女性ヘルスケア専門医 認定産業医 内科認定医
同志社女子大学嘱託講師
神戸市立医療センター中央市民病院女性外来担当
NPO法人女性医療ネットワーク理事長 http://cnet.gr.jp/
一般社団法人SRHR Japan代表理事 https://jp.srhr.jp/


真貝 友香(ライター)

ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。
妊娠出産を機にフリーライターとして活動。子育て、教育、キャリア、テクノロジー、フェムテックなど幅広く取材・執筆中。

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手塚 美幸(Webメディア「カンテラ」主宰)

ライター、プランナーとして活動し、女性の健康・キャリアをテーマとするWebメディア運営、事業企画にかかわる。国家資格キャリアコンサルタント。一般社団法人 女性の健康とメノポーズ協会認定資格「女性の健康経営アドバイザー」保持。さんぎょうい株式会社働く女性の健康とキャリア事業室フェロー。42歳での最後の出産を経て、1男2女の母。

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