チーム完熟の【完熟お見舞い、申し上げます】
既婚、未婚、子あり、子なし、シングルマザーとバラエティに富んだ編成のコピーライター集団「チーム完熟」。酸いも甘いもかみ分けてきた40代~50代の4人が人生の後半にさしかかり、訪れた心身の変化に向き合う奮闘記【完熟お見舞い、申し上げます】。同世代の読者が抱えるモヤモヤした気持ちを少しでも明るく照らせますように!
自虐が得意なわたしたちへ。寒くなってきましたのでご自愛のほど。
数十年前のちょうど今頃。
部屋の大掃除をしていた中学生のわたしは、一年分の雑誌をかき集めていました。片付けるはずがパラパラとページをめくって日が暮れるというあるあるを経て、いよいよ捨てるぞというところにきて、ハタと気がついたのです。
表紙で笑っている12人のモデルさんの目が、全員クッキリ二重であることに。
そしてわたしの目は、ガッツリ一重。
瞬間に悟りました。
わたしは世でいうところの「ブス」であり、女として日陰を歩く人生になるであろうことに。
うすうす感じてはいたんです。
幼稚園の劇ではお姫様ではなく、イモムシに指名されたこと。小学校の文集の○年○組なんでもアンケートでは「かわいい女子ベスト3」にかすりもしなかったこと。
「わたしはブスなのではないか」という疑念。
でもまだ漠然としていたんですよね。
この日を迎えるまでは。
でも雑誌の表紙の二重率100%に気がついてしまった。
「かわいい女子」には一定の規格があり、わたしは規格外であることに。
(数年後には冨永愛さんが出現しクールビューティーが爆誕するのですが、この時点ではその発想はなかった。まぁあったとしても、「一重」以外の要素で同じ結論に至ったと思われます)
この日を境になぜかわたしは、これからの人生は「おもしろさ」で勝負しようと、女芸人的生き方に舵を切ります。
その戦略の主たる武器が「自虐」でした。
例えばわたしの本名は、少女マンガの主人公でもおかしくないような佇まいなのですが、大学のサークルの新歓コンパ申し込みノートに名前を書いたときにこんなことがありました。
記入した本人がまだそこに残っていることを知らずに、サークルの先輩男子が声をあげたのです。
「うわ、めっちゃ可愛い名前!」
ノートを覗き込んだ周囲の先輩も「おぉ!」とか言って盛り上がっている。
やばい!!
かわいい新入生女子が入部するという期待感が溢れてる!
このまま新歓コンパ当日を迎え、「○○○○ってどの娘?」ってなったら……。
考えただけでもワキ汗が……。
咄嗟になんとかせねばと、へらへらと笑いながら
「どーもー、いやいやいや、ご期待を裏切ってすみませんねー」的な入りから、トークを繰り広げたのでした。
結果的にはサークルに入る前から先輩男子たちと顔見知りとなり、数ヶ月後にはその中の1人と付き合うことになります。
「自虐」いいね!
これは恋愛に限ったことではありませんでした。
自虐は仲間との会話の中でも笑いを生みやすく、コミュニケーションを円滑にしてくれる手段として非常に優秀でした。
20代、30代と年を重ねるにつれ、自虐のネタも進化を遂げていきます。
「ブス」ベースであったものが「おばさん」へと広がりを見せたのです。
ブスでおばさんとなれば、もう怖いものはない。
そんな感じであちらこちらに顔を出したりしていましたが、40代になった頃から少しずつ違和感を覚えるようになりました。
「ルッキズム(外見にもとづく差別)」という言葉がちらほら耳に届くようになってきて、いよいよ自虐に対する違和感は膨らんでいく。
あれ? わたしは何を言っているんだろう。
そもそも自虐って面白いの…か…??
テレビのお笑い番組で、当たり前のように芸人さんたちが口にしていた
「ブス、デブ、ハゲ」が、最近はなんだかまったく笑えない。
いや、むしろめちゃくちゃ寒いよ・・・。
これまで得意になって振り回していた「自虐」の剣。
果たしてそれってわたしにとって、最高の武器だったんだろうか?
「自虐」が得意で、それがうまくいって結果的に愛された。
いやいや、そんな事実、そもそも本当に存在していたのだろうか?
これまで付き合ってきた彼氏は誰一人として
「マスカットの自虐ネタ大好きだよ」とは言ってなかったよね?
心理学的に「自虐」のメカニズムを分析すると、
「自らを卑下することで、他人からの言葉の攻撃を未然に防いでいる」ということらしい。
わたしがずっと剣だと思っていた「自虐」は、実は盾だったのか……。
12冊の雑誌を目の前にして、勝手に傷ついた10代のわたし。
無意識にもう傷つきたくないと、強固な守りモードに入ったのかもしれない。
これまでを冷静に振り返れば「わたし、おばさんだからさぁー」などと言い放つことで、周囲を困り顔にさせたこともある。
もっと言えば「ブス」「おばさん」で自虐するとき、わたしは自分以外の人に対しても「ブス」「おばさん」という判定を持ち込み、しまいには笑いモノにしていたんじゃないか?
わたしはヘラヘラしながら、盾でみんなを殴りまくっていたんだ。
あぁ・・・。
寒い。寒すぎる・・・。
かくしてわたしは「自虐」をそっと手放すことにしました。
とはいえ、長年の習慣とは恐ろしいもの。
今でもつい自虐が口からこぼれて、ハッとすることもあります。
そんな時は「おばちゃんだから忘れちゃうのよねー」などと思わず、
自虐に気付けた自分を、ただそっと抱きしめてやるのでした。
このコラムでわたしと同じく「寒いな……」と感じられた方がおられましたら、時節柄、どうぞご自愛くださいますようお祈り申し上げます。